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『新・忘れられた日本人』『忘れられた日本の村』筒井功 著 読みました [今日のつぶやき(books)]

図書館の民俗学の棚で見つけた本のレビュー、続きます。3冊の写真の右の本。
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『新・忘れられた日本人』
を読み、今まで知らなったサンカと呼ばれた人々や漂白民の暮らしを知れたので、他の著作も借りて読んでみました。
『忘れられた日本の村』
『漂泊民の居場所』
『アイヌ語地名の南限を探る』



1.『新・忘れられた日本人』

新・忘れられた日本人---辺界の人と土地

新・忘れられた日本人---辺界の人と土地

  • 作者: 筒井 功
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2011/11/02
  • メディア: 単行本


著者は元新聞記者ということで、自ら調査地へ出かけ、その土地の古老と呼ばれる人にインダビューを行い、その考察結果をまとめている。
地道なフィールドワークから導き出された考察は真実味があり、事実に基づいた推論にも説得力があります。

まず、サンカと呼ばれる人々について。
エタ、ヒニンという被差別があったことは教科書の記述で知っていました。
それとは異なり、箕を作って売り修理しながら定住せず、あちこちに住みながら暮らしていた賎視の対象となった人々がいたこと。
著者が聞き取り調査できた平成始め頃まで、その暮らしをしていた人が存命であったことを考えると、昭和30~40年代、父や母もそうした人たちを知っていたのかもしれないと思いました。

農家では必ず必要な箕。
実家でももちろん使っていました。記憶にあるのは米ではなく、小豆やいんげんなど豆の鞘と実の選別に祖母が振っていた姿。
あまり家の手伝いをしなかった自分が覚えていないだけで、母も使っていたかもしれません。
箕は高価で取引された、と本にありましたが、確かに実家でも購入年を書いたものが残っています。
実家にある箕もどこかの箕作人が作ったものであったろうと思うと、こうした漂白民の暮らしが身近に感じられます。
尤も、昭和40年代頃には箕も作った人が売り歩くのではなく、卸に売っていたようなので、実家にあるものは卸売り人から買ったのかもしれません。


箕を作る人に限らず、お椀など塗り物の木地を作る職人も賎視対象であったこと。
木地にふさわしい大木を求めて、山の中を移動する職能集団。
恐らく、定住せず各地を渡り歩かざるを得ない職業には、犯罪者などの良からぬ者も紛れ込みやすいので、蔑まれていたのではないでしょうか。
かつての差別につながる内容はなかなか表に出てこないし、知っている人もそれを話したくないでしょうから、今まであまり知られてなかったのだと思いました。


2.『忘れられた日本の村』


忘れられた日本の村 増補版

忘れられた日本の村 増補版

  • 作者: 筒井 功
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2022/07/02
  • メディア: 単行本



この本に出てくる綾子舞の里、柏崎市鵜川。
ダムめぐりで行ってみた場所なので、目次を見てこれは!と思いすぐ借りました。
鵜川ダムは2023年現在建設中で、入口まで行ってみたけど立ち入り禁止だった場所でした。
近くを通っただけでしたが、そこそこ山深い場所でした。

綾子舞はかつては綾子踊りと呼ばれ、出雲の阿国の踊りとの類似性が舞踊に関する専門家からも指摘されてるとのこと。
出雲の阿国とは、これも教科書に出ていた記述で知っていること。
著者は、「ややこ(赤ん坊、若いことの強調)踊り」の転訛で「綾子(あやこ)踊り」になったのでは、と推測しています。
かつては男性が娘役も踊っていたらしいです。

この鵜川地区には、踊りなど芸能を専門とする職能集団がいて、東京まで興行に行っていたらしいこともビックリでしたが、箕を作っていたというのも驚きでした。
今は「綾子舞会館」というものができていて、伝統的な舞の継承も行われ、秋には実際に踊りも見られるようです。見に行ってみたくなりました。


3.『漂泊民の居場所』

漂泊民の居場所

漂泊民の居場所

  • 作者: 筒井 功
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2023/05/29
  • メディア: 単行本



これは上2冊の内容と被る部分も多かったのですが、関西地域の漂泊民には川魚漁で生計を立てていた人々もいたということが書かれていました。
また、漂泊民は一つのだけでなく複数の生業を持って生活していたとか、農民などの定住民とは交流が無かったとか、昭和初期までは戸籍がないまま暮らしていた人も多かったのではとか、そういった人々の暮らしの様子が伺えました。

著者が小学生の頃、先生に頼まれて河原に住む級友に届けものを持って行ったエピソードを読んで、昔見た特撮ウルトラマンのある放送回のイメージが浮かびました。
「ウルトラマン」の再放送なのか、「帰ってきたウルトラマン」だったのか、もう詳しくは覚えていないのですが、河原で雨の中壊れた傘をさして地面を掘っている男の子の姿が印象的で、かなり暗く報われない話だった気がしています。
ざっと調べてみましたが、どういう話だったか探せませんでした。
漂泊民の置かれた暮らしというのは、ツライものもあっただろうなと、その放送回のイメージを重ねて思ってしまいました。


4.『アイヌ語地名の南限を探る』

アイヌ語地名の南限を探る

アイヌ語地名の南限を探る

  • 作者: 筒井 功
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2020/10/13
  • メディア: 単行本



アイヌ語地名は北海道に多いのは知っていましたが、実は秋田県北部や岩手県にもあることは知りませんでした。
静内、稚内などの「ナイ」は、アイヌ語で「川」のことで、~内の地名が東北北部に多いことからタイトル通りアイヌ語地名の南限を調べています。

地名からアイヌ語との関連を予想し、実際に同じ名前の付いた土地へ行って、その地名の由来を推測しているところは、著者の得意とするフィールドワークに基づいており、信ぴょう性があります。

アイヌ語だけではなく日本の古語からついた地名の説明もあり、それが面白かった。
野口五郎岳、黒部五郎岳の由来はそれにあたります。
古語で大きな岩をゴウロまたはゴウラと呼んでいたので、大きな岩がある沢をゴウロサワ→ゴロウサワとなり、漢字を当てたので「五郎沢」となった。
昔は山にいちいち名前を付けていなかったので、山の名前を沢の名前で呼んでいたので五郎岳となった。
野口と言う地名にある五郎岳なので「野口五郎岳」となったということらしい。
黒部五郎岳は野口五郎岳と区別するため、黒部と後付けでつけたという。
箱根の強羅はそのままゴウラに漢字を当てたものだとも。

実家にも五郎沢があります。
沢を田んぼに開拓した人が五郎だから五郎沢なのかなと思っていましたが、ゴウラから転訛したものなのかもしれません。
なるほどと思いました。


アイヌ語に関しては、漫画「ゴールデンカムイ」の人気によって注目されているようですね。
アイヌが長く差別対象になっていたことで、地名の由来が分からなくなっていることもあるのではと思いましたが、これからはフラットな見方ができるようになるかもしれない。
漫画って、本当に侮れないです。

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